2.相続した不動産を売却する時、税金の特例などはどうなるのか?
■ 単独登記型は贈与にならないよう注意が必要
単独登記型による売却は贈与にならないようにすることに注意が必要です。
不動産を売却して現金で分割する換価分割には、共同登記型と単独登記型の2種類があります。
共同登記型とは、一旦、不動産を共有で持ち、共有のまま売却する方法です。
それに対して、単独登記型とは、不動産を特定の相続人が単独所有、その後特定の相続人が売却した後、お金を他の相続人に分配する方法です。
分割の仕方として、遺産分割協議を選択します。
共同登記型
共同登記型では、共有物件の売却となるため、売買契約時に原則として共有者全員の同意と立ち合いが必要になります。
単独登記型
単独登記型では、単独所有物件の売却となるため、所有者本人だけで売却手続きを進めることができます。
意思決定もスムーズで、相続人が遠方に分散している場合には単独登記型はメリットがあります。
ただし、何も対策をせずに単独登記型で売却すると、所有者が受け取った現金を他の相続人に配分する行為が贈与とみなされてしまうケースがあります。単独登記型でお金の配分が贈与とみなされないようにするには、遺産分割協議書に換価分割目的で遺産を取得することを明記しておくことが必要になります。
■ 親の家に住む場合と住まない場合では税金特例が異なります
親の家に住む場合と住まない場合は税金特例が異なる点が注意点です。
相続した親の家に相続人(売主となる子供など)が住むと利用しやすい複数の特例があるため、売却時の税金を節税しやすくなります。相続した親の家に相続人が住まないと利用しにくい特例しかないため、売却時の税金が節税しにくくなります。
親の家に引き続き子供が住み、その家を売却する場合の扱いはマイホームの売却と同じ扱いになります。
マイホームの売却は、なるべく税金を発生させないようにする政策的な配慮があり、利用しやすい複数の節税特例があります。
- ・3,000万円特別控除
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
- ・所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3305.htm
- ・特定の居住用財産の買換え特例
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3355.htm
- ・居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3370.htm
- ・居住用財産に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3390.htm
相続した親の家に相続人が住まない場合
相続した親の家に相続人が住まない場合、以下の2つの特例が利用できる可能性があります。
- ・取得費加算の特例
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
- ・相続空き家の3,000万円特別控除
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
取得費加算の特例は、相続税を納税した人だけが利用できる特例です。
相続空き家の3,000万円特別控除とは、一定の要件を満たした戸建てを売却する場合に利用できる特例です。
節税を目的に親の家に一時的に住んで、居住用財産の特例を利用することはできないので注意が必要です。
■ 売却期限は3年以内が目安
相続した不動産の売却期限は3年以内が目安となるという点が注意点です。
相続不動産で利用できる2つの特例の期限は、主として3年を目安としているためです。
- ・取得費加算の特例
- 相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却
- 相続開始のあった日の翌日から3年10ヶ月以内
- ・相続空き家の3,000万円特別控除
- 相続の開始のあった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却
取得費加算の特例を利用するには、以下の要件を満たすことが必要です。
- 相続や遺贈により財産を取得した者
- その財産を取得した人に相続税が課税されている
- その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡
相続空き家の3,000万円特別控除が利用できる家屋の主な要件
- 相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋
- 区分所有建築物(マンション等)以外の家屋
- 相続の開始直前においてその被相続人以外に居住していた者がいなかったこと
- 相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付の用または居住の用に供されていたことがないこと
- 家屋を取り壊さずに売る場合、売却時において、その家屋が現行の耐震基準を満たしていること
- 相続の開始があった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
ポイントとしては、「昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること」と「区分所有建築物(マンション等)以外の家屋であること」です。
「昭和56年5月31日以前に建築された家屋」しか利用できないため、それ以外の建物は利用できないことになるので注意が必要です。
相続空き家の3,000万円特別控除を利用するにあたっては、「耐震リフォームをしてから売却する」のと「取り壊してから売却する」という2つのルートがあるという点がポイントになります。
■ 取得費は親の購入額を引き継ぐ
相続不動産の取得費は親の購入額を引き継ぐという点が注意点です。
個人が不動産を売却したときは、譲渡所得を計算します。
譲渡所得とは、以下の計算式で求められる売却益のことです。
譲渡所得 = 譲渡価額※1 - 取得費※2 - 譲渡費用※3
※1 譲渡価額とは売却価額です。
※2 取得費とは、土地については購入額、建物については購入額から減価償却費を控除した価額になります。
※3 譲渡費用は、仲介手数料や印紙税など、売却に要した費用のことを指します。
上記の計算式の中で「取得費」が出ます。取得費は、親が購入した不動産の額です。
土地については購入額をそのまま用い、建物については購入額から減価償却費を控除した価額を取得費とします。
取得費 = 土地取得費 + 建物取得費
= 土地購入額 + (建物購入額 - 減価償却費)
■ 所有期間は親の購入日を引き継ぐ
相続不動産の所有期間は親の購入日を引き継ぐというのが注意点です。
譲渡所得が発生した場合、税金は譲渡所得に税率を乗じて求められます。
税金 = 譲渡所得 × 税率
税率は、所有期間によって異なります。
売却する年の1月1日時点において所有期間が5年超のときは「長期譲渡所得」、1月1日時点において所有期間が5年以下のときは「短期譲渡所得」と呼ばれます。
相続不動産の所有期間は親の購入日を引き継ぐというのが注意点です。 譲渡所得が発生した場合、税金は譲渡所得に税率を乗じて求められます。
税金 = 譲渡所得 × 税率
税率は、所有期間によって異なります。
売却する年の1月1日時点において所有期間が5年超のときは「長期譲渡所得」、1月1日時点において所有期間が5年以下のときは「短期譲渡所得」と呼ばれます。
所得の種類 所有期間 所得税率 住民税率
短期譲渡所得 5年以下 30% 9%
長期譲渡所得 5年超 15% 5%
復興特別所得税の税率は、所得税に対して2.1%を乗じます。
税率は長く所有している長期譲渡所得の方が低く、節税できるという点がポイントです。 所有期間は親の所有期間を引き継ぎますので、例えば親が既に5年超の所有期間を有していれば、相続後、すぐに売却しても長期譲渡所得の税率が適用されることになります。
■ 取得費が不明の場合は代替資料を探す
取得費が不明の場合は代替資料を探すことが注意点です。
取得費が不明な場合には、概算取得費というものを用います。概算取得費とは「譲渡価額の5%」になります。
概算取得費を用いてしまうと、取得費が小さくなってしまうため、譲渡所得が大きく計算されてしまいます。
そのため、概算取得費を用いてしまうと、税金が高くなってしまうので注意が必要です。取得費が不明な相続不動産の売却で節税するには、取得費を証明する代替となる資料を探すようにします。
【取得費の代替になる資料の例】
- 新築物件の場合、当時の販売会社から購入当時の売買契約書の写しをもらう
- 当時仲介してくれた不動産会社や売主から購入当時の売買契約書の写しをもらう
- 通帳の出金履歴から購入額を推測
- 住宅ローンの金銭消費貸借契約書から購入額を推測
- 抵当権設定額から購入額を推測
- 一般財団法人日本不動産研究所が公表している市街地価格指数から土地の取得費を算定する
- 一般財団法人建設物価調査会が公表している着工建築物構造別単価から建物の取得費を算定する
などがあります。
上記のような資料が揃えられる場合、あらかじめ税務署に相談することをおすすめします。
株式会社CeRiche(セーリッシュ)では、相続診断士を持ったスタッフが在籍しております。
相続した不動産を売却したい方、ぜひ一度お気軽にお問い合わせください。