法制審議会(法相の諮問機関)によって、相続や住所・氏名を変更した際に土地の登記を義務付ける法改正案は答申されました。
相続登記が義務化されると、土地所有者が亡くなった際に亡くなった方の配偶者や子供といった相続人は、取得を知ってから3年以内に相続登記することが必要になります。
正当な理由なく怠れば10万円以下の過料が科されます(罰則の適用は、取得が明らかなのに申請を怠るなど悪質なケースが想定されます)
相続登記の義務化に伴う改正ポイントを挙げてみたいと思います。
■ 相続登記が義務化
不動産の相続が発生した際は、相続により不動産の所有権を取得した者は相続の開始及び所有権を取得したことを知った日から3年以内に不動産の名義変更登記をしなければなりません。
これは、遺言などの遺贈により所有権を取得の際も同様です。
■ 相続人申告登記制度が新設
改正不動産登記法では、「相続人申告登記」という制度が新しく作られました。
不動産を相続した人が法務局の登記官に対し「私が不動産の相続人です」と申し出て登記してもらうという制度です。
不動産の所有者となったことを知ってから基本的に3年以内に相続登記しなければなりませんが、遺産分割協議が終わっていないなどの事情により、相続登記をするのが難しいケースもある場合があります。
先に「私が相続人です」と法務局に申請することで、上記の義務を履行したことにしてもらえるのが、相続人申告登記制度にあたります。
相続人申告登記の申請があると、登記官はその不動産の登記に申出人の氏名や住所などの情報を付記します。この時点では正式な相続登記ではありません。
その後、遺産分割協議などを行って相続人が確定したら、その日から3年以内に正式な相続登記(名義変更)をすれば相続人は義務を履行したことになります。
相続人申告登記の具体的な申請方法について詳細はまだ未定ですが、相続人が単独で申請できて添付資料も簡易なものとなるようです。
正式な相続登記より負担が軽くなります。すぐに相続登記ができない場合は、相続人申告制度を利用することをおすすめします。
■ 相続登記をしない場合は10万円の過料が科せられる可能性
相続登記が義務化された後、期限内に相続登記を完了しない場合、罰金が過される可能性もあるがあります。
具体的には「10万円以下の過料」が課される可能性があります。過料とは、お金を取り立てられる金銭的な行政罰です。
過料は罰金や科料とは異なり犯罪ではないので前科はつきませんが、お金をとられるだけでも十分なペナルティとなってしまいますので注意が必要です。
■ 遺産分割後の名義変更登記も義務化
相続人間の遺産分割がまとまらず、すぐに相続登記ができないときは民法で定める法定相続人が法定相続分で登記を行うことにより、当初の義務を免れることができます。
そのままだと、法定相続分に従って不動産の共有をすることになります。
そこで法定相続分による相続登記後、遺産分割協議を行うことにより遺産分割で取得した相続人は、相続した不動産の相続登記(名義変更)を行う必要があります。
この遺産分割による名義変更においても、遺産分割の日から3年以内に登記をすることが義務づけられます。
義務を免れるために上記の法定相続分での登記手続きを行うことには、手間とコストがかかります。
そこで遺産分割がまとまらず速やかに相続登記をできない場合には、相続人であることを申告すれば相続登記をする義務は免れる制度が設けられました。
この制度が利用された場合には、法務局(登記官)が登記簿に申告をした者の氏名住所などを記録します。
■ 義務化に伴う登記手続きの一部が簡略化
これまで相続人に対して相続財産の一部を遺贈する内容の遺言があった場合には、不動産の遺贈を受ける者以外に法定相続人全員(遺言執行者がいるときは遺言執行者)の協力がないと遺贈による名義変更手続きができませんでした。
協力をしない相続人等がいると義務を履行できないため、改正後は遺贈による名義変更は、不動産の遺贈を受ける者が単独で申請することができるようになります。
また、法定相続分による相続登記後、遺産分割による名義変更登記も、他の相続人の協力がなければ名義変更ができなかったのが、法改正により、不動産を取得した者の単独で申請することができるようになります。
■ 法務局が住基ネットで把握した死亡情報を登記できる
住民基本台帳ネットワークシステムで、法務局(登記官)が登記簿上の所有者が死亡していることを把握した場合には、法務局(登記官)の判断で所有者が死亡していることを登記簿に記録することができます。
あくまで死亡情報のみを記録するのみになり、相続登記の義務は免れることはできないので注意が必要です。
■ 登記をしていない不動産がある場合
今回の法改正では、現時点で既に相続登記がされていない不動産についても、義務化が検討されているようです。
その場合、相続が発生したときに相続登記をしていなかった人全員が、法改正後に相続登記を義務化される対象になります。
まずはご自身がその対象になっているのかどうかを確認することをおススメします。
現在の登記を調べる方法としては、法務局に行けば不動産登記の全部事項証明書を取得することができます。また、有料にはなりますが、インターネットで登記情報を取得できるサービスもあります。
相続登記をしているかどうか分からない方は、今のうちに調べておくと良いでしょう。
■ 登記をしていなければ今のうちに対策を!
土地を相続したときにすぐに相続登記をしておかなければ、所有者自身にも次のようなデメリットがあります。
- 相続した不動産が自分の意志で売却したり、担保に入れたりできなくなる
- 相続人の中に借金がある人がいた場合、不動産を差し押さえられるリスクがある
- 相続登記の義務化以降に相続があれば子や孫に迷惑をかけてしまう
相続登記が義務化される前であっても、土地を相続したときはできるだけ早く相続登記をすることをおすすめします。
相続登記は専門家に依頼しなくても自分で手続きをすることができますが、日中は忙しくて法務局や市役所に行けない方や相続人が多い方などは手続きに多くの手間がかかります。
自分で手続きをすることが難しい場合や時間がない方や何代にも渡って相続登記をしてない場合は相続登記の専門家である司法書士に依頼することをおすすめします。