国土交通省は全国の土地や建物の情報を共通IDで一元的に把握できる仕組みをつくることを発表しました。民間の売買データベースと国の登記簿などを照合しやすくするためです。事業者が消費者の求める情報を調べやすくなり、取引を円滑・透明にできるようになり、人工知能(AI)による資産査定など新サービスの普及を促し、中古住宅市場を活性化できれば空き家対策にもつながります。
有識者らによる検討会を設け、2021年度中にデータ連携の指針をまとめます。22年度からの運用をめざして動き始めているようです。不動産取引で融資する銀行など金融機関にとっても、物件の担保価値を評価しやすくなると見込まれます。
不動産の分野では、流通物件の成約実績を蓄積する事業者用の検索システム「レインズ」があります。
各事業者は管理物件の改修履歴など独自の詳しいデータも持ちますが、バラバラの情報をひもづけて消費者に提供するのに手間がかかる問題がありました。
国交省は共通IDを作成し、データ連携を進めて行く予定です。
国の法務局が管理する不動産登記簿にある13ケタの番号の活用を想定しています。業界各社には物件の新規登録やデータ更新の際にIDを反映するよう求め、対象となる土地・建物は全国2億件超に上るという。
導入には事業者ごとのシステム改修が必要になる見込みです。
登録項目などの詳細は検討会で議論。登記簿には個人情報も含まれることから、データ連携が個人情報保護法に抵触しないようにルールを詰めています。
日本は中古物件の取引が少ないのが現状です。
背景には「設備の状況や価格の妥当性が分からない」といった消費者の不安もあります。
データ連携が進めば事業者は消費者のニーズに応じた様々な情報を網羅的に集めやすくなり、データ量が増え分析も容易になるため、コンピューターが迅速に資産価格を見積もる「AI査定」などの精度も高まっていく見込みです。
消費者向けの住宅情報サイトでは、同じ物件の広告でも仲介業者が異なると重複して分かりにくいといった指摘が少なくない。共通IDを活用すれば同じ物件を整理して見やすくしたり、問い合わせをしなくても成約情報を即座に反映させたりできるようになります。消費者がスマートフォンひとつで必要な情報にアクセスできるような新サービスの普及を後押しすることになるでしょう。
海外では米国の一部の州で事業者が共通IDを活用した不動産データ基盤を整備している。英国は公的機関がデータを共有する仕組みがあります。各国で取引制度や商慣行が異なるがデータ活用の充実は課題になっています。
住宅販売に占める中古の割合は米欧が7~8割なのに対し、日本は1割台にとどまっています。政府は中古の利活用を促してきたものの近年はほぼ横ばい。今後の人口減少の加速をにらめば、空き家対策の観点からも良質な中古住宅が流通しやすい環境の整備が一段と重要になることでしょう。